大品モノラボ2016レポート
僕たちはどうやって資金調達に成功したのか——話題の製品を手掛けるスタートアップ開発秘話
ラピッドプロトタイピングから活路を見出した「UnlimitedHand」
次に登場したのは、H2L代表取締役の岩崎健一郎氏。岩崎氏は2012年に玉城絵美氏とH2Lを創業。大品モノラボでは創業から現在に至るまでを振り返りつつ、2015年9月にKickstarterで公開を開始し、その日のうちに目標金額を達成した触感型ゲームコントローラ「UnlimitedHand」の開発経緯と今後について語られた。
Oculus Rift に代表されるHMDによって、あたかもその場にいるような体験が視覚的に得られるようになった一方で、ディスプレイに移る対象物を触れた感覚が得られないことに課題があると岩崎氏は感じていた。
そのために開発された「UnlimitedHand」は、HMDを通じて対象物に触れると腕に装着したデバイスから電気刺激で指を動かして触った感覚を再現するなど、ゲーム上の触感を疑似体験できる。ハード面ではArduinoベースのマイコンを採用、ソフト面でもUnityに対応するなどユーザー自身が開発できる余地を持たせていて、現在準備中の製品も開発者向けのキットとなっている。
UnlimitedHandの原点は、岩崎氏がH2Lで開発した「PossessedHand」だ。このデバイスが開発された経緯については、過去にインタビュー記事でまとめているので参考にしてほしい。「PossessedHand」の発表後、ゲーム向けのデバイスとしてのカスタマイズを検討した矢先、カナダのThalmicがMYOという筋電を読み取ってリモコン操作するアームバンドを発表したことから、コンセプトから練りなおすことを決めた。
コンセプトと並行して試作開発を進め、プリント基板を製作するのに鉄板ではんだ付けするなど自宅でできる範囲の中で試作とコンセプトをすり合わせていった。
その後、Oculus RiftがFacebookに買収されたのを受け、再びゲーム向けのデバイスに方向を見出し、本格的な開発に着手。外装設計は専門外だったので、クラウドソーシングサービスを使って設計者に発注し、インターネットで試作メーカーを探し、腕に巻くことを想定したゴム製の試作品を作ったりもしたが、厚すぎて巻けないという失敗も経験。そんな矢先、家電量販店で腹部や二の腕に貼って電気信号で刺激を与えるエクササイズ用のパッドを見て、製造元のメーカーに「弟子入り」することで外装の問題はクリアになった。
「回路はすぐできるが外装はデザインが大事になるので、先人の知恵を借りるというのも大切だと思いました」と岩崎氏は当時を振り返った。
そういった経緯を経て2015年8月の品モノラボに出展し、Kickstarterでの公開を準備していたところ、米TechCrunchから問い合わせがあり、9月21日~23日までサン・フランシスコで開催されたTechCrunch Disrupt 2015に参加する機会を得た。その期間中にKickstarterでキャンペーンを開始した結果、2万ドルの目標金額を1日目にして達成。その後も2度のイベント展示/プレゼンテーションを行い、その直後にさらにKickstarterに資金が集まるという結果が得られた。
岩崎氏はプロトタイピングを重視していて、オープンソースハードウェアや3Dプリンタを使って早く試作を行ったものを基に、Maker Faireのようなイベントやクラウドファンディングに出して反応を測って学び、次につなげるというサイクルを回すことが大事だと語った。
今後の予定としては2016年3月にサン・フランシスコで開催されるゲームデベロッパーズ カンファレンスに改良版を出展する予定で、現在、開発メンバーやコラボレーション先となるゲーム関連企業、プロデューサーを募集しているそうだ。