Fabbleの使い方
Fab(ble)から生まれた新しい教育/学習スタイルとは?——「ものづくり」と「ものがたり」の連動・補完・相互作用
一人1台「3D工作機械をつくる授業」~One CNC Per Child
2015年12月から始まった「デザイン言語実践」では、さらに大々的にFabbleを活用しました。この授業は100人弱の学部1~2年生が、3~5人のグループに分かれ、さまざまな実践的な演習に取り組むものです。私はこの授業で、ひとりひとりが「自分の3Dプリンタをつくる」という課題をやりたいと、何年も前から考えていました。SFCでは図書館に3Dプリンタが設置されて数年がたっており、多くの学生が日々触れていますが、既製品の3Dプリンタを使うだけであれば、そこで学べる内容は、いわゆるPC上の「3Dデータをつくる」モデリングの作業だけに限られてしまいます。そこで怖いのは、3Dプリンタで樹脂が詰まってしまったり、ガタが出て調整が必要になってしまう際に、機械の仕組み自体をまったく分かっていないことです。デジタル作業だけに偏りすぎてしまうと、フィジカルな世界に関する知識が不足してしまうのです。そこで、一度「3Dプリンタ自体をつくる」ことを体験すれば、そのなかで、機械工学の基礎、電気電子の基礎、プログラミングの基礎など、いろいろな要素を学びながら、フィジカルな世界における機械の「しくみ」を知ることができると考えました。ブラックボックスをガラスボックス化するのです。
この授業に向けて、私の研究室では1年ほど前から、廣多岳くんを中心に、70ドルほどで作れる3Dプリンタのための入門的なCNCフレームキットを設計・制作してきました。かつてMITのニコラス・ネグロポンテが開始した、こどもひとりずつにラップトップコンピュータを配布するプロジェクト「One Laptop Per Child(OLPC)」プロジェクトに敬意を表して、このフレームを「One CNC Per Child(OCPC)」と名付けることにしました。
OCPC Kitは、レーザーカッターで切ったアクリルの板、ネジ、棒、Arduino、サーボモーター、電源、ブレッドボードなどからなるキットで、丁寧に組み立てれば2~3時間で、台座を自由なx,y,z座標に動かすことのできる、3Dプリンタの基本構造としてよく採用されるデルタ(パラレルリンク)フレームが完成します。その組み立て手順を、あらかじめFabbleに「レシピ」として公開しておきました。
履修者は、キットの実物が授業で配られると、そのレシピを見ながら自分たちでキットを組み立てていきます。この作業のなかには、機械設計で出てくる技法のひとつ「ダブルナット」や、丁寧に垂直を取らないと摩擦が起きてスムーズに動作しないことなど、理論だけではない手作業からにじみ出る体験的な学びの要素を散りばめています。
OCPCは当初、3Dプリンタとして使うことを意図していたのですが、この授業では、3Dプリンタに限らなくても、ペンやドリル、歯ブラシやフォークなど、さまざまな先端部を付け替えることによって、さまざまな簡易な工作機械を制作できる基本フレームとして活用することにしました。そして、このキットを使って最終的にどんな「個人用工作機械」を作るかは学生に委ねることにしました。
学生チームには、Fabbleの「Fork(分岐)」機能を使って、もとのOCPCのレシピを各グループのプロジェクトページへと派生させ、そこに、グループ独自の改良を加えた作品の「映像」と、可能であれば「レシピ」を公開することを求めました。その結果、「りんご剥きCNC」など、実にユニークな個人用工作機械が24機も生まれたのでした。これだけ複雑な授業をマネジメントできたのはFabbleなしには考えられなかったと思います。
また、筧康明先生も触れられていましたが、Fabbleの最下段に出てくるFacebookとの連携機能はすごく機能しました。学生は、分からなくなったら質問をFacebook欄に書き込みます。学生のティーチングアシスタントがそこで応答します。この「Facebook連携機能」は「質問コーナー」として非常にうまく使われることが分かりました。
そしてその後、田中浩也研究室のなかでも、OCPCを使って個人的な工作機械を作るプロジェクトが行われました。下記はその結果となる6つの作品ですが、どれもきちんと稼働し使用することができる、コンパクトな「新種の工作機械」にまで仕上がっています。