3Dでハードコアな超高速ものづくり《最新事例》
ヤマハ×革!? 3D技術で企業のレジェンダリーデザインを引き継ぐ
テクスチャーを復刻するモデリング技術
現物がダメであればと別の案を探す中、なんと同年代のヤマハ製品に、革シボが施されたものが見つかった。かくして、その既存製品の革シボのスキャンと復刻を試みることになった。モデリングを担当したのは、テクスチャーデザインの経験に長けた八島絵美。
「まずは30cm四方をスキャンしたデータのノイズを取り除く作業から始まったんです。通常、スキャンは黒いものを撮ることが苦手なためノイズが入っていたのと、対象物が経年劣化していることで使用できる範囲が限られていました」
加えて、製品のサイズ上、テクスチャーを並べて実際の製品サイズに合わせねばならない。しかしただタイル上に並べるのみではパターンの繰り返しが目立ち、不自然さが出てしまう。そこでまず、180°回転させたものを並べ、つなぎ目を手作業で埋めていった。それを繰り返し、縦幅の足りる1パターンを作る。横に並べて再度、つなぎ目をモデリング作業で違和感の無いよう埋める。
現在では自動増殖のプログラムを開発して行っているが、当時はその作業を手動で行った。埋める、と一言に言っても革シボデータの特性を理解した上の表現でなければ到底成り立たない工程である。
「実物の写真を見ながら、凹凸を判断して直していきました。今までも革のスキャンは何件かありデータをいろいろと扱ってきたので、どんな風にモデリングすればどんな革に見えるかは、もう感覚です」(八島)
Geomagic FreeFormという触感デバイスを仕事で扱って、8年以上になる。ペン型マウスで対象物を引っ張ったり凹ませたりと直感的に編集できるので、写真で見た革の見た目を画面上のデータに反映しやすいという。
造形は、残っていたヤマハ既存モデルの金型を改造し、部分的に入れ子状の金型を新規作成した。そして再度、深さと倍率違いのモデルを試作し、その後の塗装を見越した検証を重ねてついに成形へと至った。
「革のテクスチャーにより、通常のモデルでたびたび問題になるヒケ、ウエルドなどの外観不良が解消できたことが、予想外のメリットでした」とは、メカ設計担当の島津剛氏。
金型の成型品として表面加工を施すことは初の試みであったヤマハにとって、当時、製品化の事例が少なかったD3テクスチャーの採用は社内で異論が唱えられなかったのだろうか。
「新しく技術を採用する是非については、正直なところ半信半疑でした。試作と評価を重ね、成型品の現物を確認することでD3テクスチャーの採用に至りました。」(島津氏)
「コンセプトとして革シボのデザインありきでしたので、達成の方法を探ることが重要でしたね」(大野氏)
CP80の当時を知るプレイヤーからは「これ(革調)だよね!」とおもしろがってもらえるということだ。
最高峰の音質・性能、かつシンプルで軽量という商品特性上、造形としての自由度は非常に少なかった。だが、だからこそ「CP80/70」のレジェンドを引き継いだデザインにするには、テクスチャーや素材をこだわることでヤマハのDNAを表現することが重要だったという。
プロとしてのデザインコンセプトに込めた想いを、プロとしての技術が応えた、ただの加飾で終わらないテクスチャー事例となった。多くのアーティストに愛される製品には、企業の枠を越えたプロの技術と想いが結集されている。
連載バックナンバー一覧
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