2020年プログラミング必修化!「作る」ことで分かるSTEM教育
第3回 足りないのは人と時間。世界を取り巻くSTEM教育の現状と課題
子ども研究員が活躍。「ロボットと未来研究会」
センターの活動内容の中心となっているのが、センター設立と同時に立ち上がった「ロボットと未来研究会」です。そこでは、野村先生の研究室の学生を中心に、研究会を運営する大学生が各自の研究課題に基づいてデザインされた活動や学習環境が提供され、子どもたちが研究員となり、大学生と一緒になって、主体的な学習者として課題に取り組んでいます。活動内容についてお聞きしました。
——「ロボットと未来研究会」の具体的な活動について教えてください。
野村:入門コースでものづくりやプログラミングの基礎を学びながら論理的な思考力を養い、応用コースで各種大会や発表会を通して問題解決力を高め、研究コースで自分のテーマを見つけて取り組む問題発見力を養う、というのが基本です。その一方で、問題解決力を高める指導方法やコースのカリキュラムデザインは、私の研究室の学生をはじめ、ここに関わる大学生の卒業研究などのテーマとして研究開発されているものです。子どもたちと一緒に大学生も研究しているわけです。
各コースは1期が全15回で1回は90分。原則、月に3回で定員は1グループ6人。年間に2期開講しており、現在ちょうど30期が終わろうとしているところですが、全体で60人を超える子ども研究員が活動しています。例えば、入門コースでは野村研究室で開発したオリジナルのロボット教材で基本ロボットを組み立て、動かすことから始めます。できる、できないを重視するのではなく、主体的な学習者として、学び方を学んでもらうことに力を入れています。したがって、コースが始まる前に、保護者にも課題がすべて終わるかどうかは子どもたち次第であることを告げています。5回で終わる子がいるかもしれないし、15回でも終わらない子がいるかもしれません。一人一人、結果は違いますが、それぞれの努力の結果ですからいずれもすばらしいものです。
活動の中心は座学ではなく、ものづくりです。ロボットを題材として持ってきたのは、ロボットに生かされた技術はいろいろあり、統合的な産物だから。インテグレーションという思想にも合います。教師役の大学生は、子どもたちが自分でやり出すまでひたすら待ちます。STEM教育を目指す教師にとって、待つこと、我慢すること、答えを教えないことは重要なスキルだと思いますね。ただ、それは何もしないという意味ではなく、目的意識を持って問題を発見する能力を身に付けてもらうために「なんでそうしたの?」といった問いかけを適切な場面でしています。将来教員を目指す学生にとって、これからの新しい教育について日々試行錯誤しながら考えるよいフィールドとなっています。
理論と現実との差異
——活動に取り組む子どもたちの様子を教えてください。
野村:子どもたちはロボットを作りながら、いくら理屈ではプログラムが正しくても、現実的にはその通りには動かないという体験をします。これが大切です。理論と現実をどう埋めていくか。これこそがリアルなものづくりの世界です。このとき、教師が答えを教えずじっと見守ることで、どこに問題があるのか、どう解決していくのか、自分の頭で考えざるを得なくなります。この繰り返しが、問題発見力、問題解決力、論理的思考力などを養っていきます。
ロボットを動かすという目的のための解は子どもの数だけあります。子どもは適切な環境を与えてやれば、周りは黙っていても主体的に学び出す存在だと思います。ポイントは教える側が、子どもたちが主体的に動けるような環境を、どう作り、用意するか、にあります。
ロボットと未来研究会に通っている子どもの中には学校の勉強が苦手だと公言する子もいます。そんな子でもここでは主体的に自分から学び、動いています。そういう子を見ていると、今の学校は、新指導要領が出るこのタイミングでより主体的な学習者の育成という場にふさわしい環境となるように見直しをしていく必要もあると思います。