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2020年プログラミング必修化!「作る」ことで分かるSTEM教育

第3回 足りないのは人と時間。世界を取り巻くSTEM教育の現状と課題

日本のSTEM教育に15年前から取り組む埼玉大学STEM教育研究センター代表の野村泰朗先生に聞く

埼玉大学STEM教育研究センターは日本のSTEM教育の草分け的存在で、活動開始は15年も前にさかのぼります。同センターは、子どもたちといっしょに「ロボットと未来研究会」を主宰し、ものづくりを中心とした新しい教育方法の研究に取り組んできました。代表の野村泰朗埼玉大学教育学部准教授にお話を伺いました。

「ものづくり教育」が「STEM教育」になった

野村先生が本格的に新しい教育の研究に取り組んだのは2001年ごろ。このころ、新しい教育理論に基づく技法や教材が開発され、研究へ向けての環境が整いました。

——STEM教育研究センター設立の経緯について教えてください。

野村:2001年に埼玉大学で立ち上げました。ちょうど、今プログラミング教育でよく使われているScratch3)のもとになるプログラミング言語(4)を開発し教育実践を続けていたMITメディアラボが開発に参画した、レゴのマインドストームが普及し始めたときです。立ち上げ時は「ものづくり教育研究センター」という名称でした。今でもそうですが、「ものづくり教育」という言葉はどちらかというと職人養成の文脈で使われることが多く、当初は職人養成についての研究をしているのかと誤解されたりもしました。実践研究の場となる「ロボットと未来研究会」(後述)の立ち上げもほぼ同時期です。

2007年ごろ、ヨーロッパやアメリカの技術教育系学会で「STEM教育」という単語がよく聞かれるようになったと感じました。「ものづくりを通して主体的な学習者を育てる」「教科で学んだことを総合的にインテグレーションして問題解決に生かす」という理念は同じなので、言葉として採用することにし、「STEM教育研究センター」と改称しました。活動予算はセンター立ち上げの時から外部資金を使っており、大学の予算はほとんど使っていません。政府系助成金、企業との共同研究による教材やカリキュラムの開発、そして「ロボットと未来研究会」の会費などで予算を確保しています。苦しかった時期もありますが、スタッフの人件費も含め、今はほぼ独立採算で運営しています。

——2007年頃の世界のSTEM教育の状況はどんな感じだったのでしょうか?

野村:2つの流れがありましたね。ひとつはヨーロッパ流。ポイントはインテグレーション(統合)。テクノロジーは学問領域を横断したインテグレーションの産物という考え方です。もうひとつはアメリカ流。21世紀型労働者の育成という産業界の要請に基づき、STEM領域に強い専門家の育成を目指すというところからスタートしています。同じSTEM教育といいながら今も流派の違いがあります。日本での取り上げられ方はそれらの中間を目指しているといった感じでしょうか。ただ最近、外から見たのとは違い、アメリカでも現場に近い研究者はインテグレーションを重視して実践していることが分かってきました。

独自に開発した教材用のマイクロコントローラーを手にお話をする野村先生。 独自に開発した教材用のマイクロコントローラーを手にお話をする野村先生。

3 世界中の子どもたちがプログラミングを学ぶ導入などで使っているソフトウェア。Webブラウザやタブレット上で動き、Raspberry Piなどの安価な機器で動くタイプもあり、幅広い場面で活用されている。

4 MITメディアラボの教授であったシーモア・パパートは、子どもたちが自分の理解や考えを数学概念も用いて表現することを通して学びを深化させることができると考え、そのための道具としてプログラミング言語LOGOを開発した。画面上のタートル(亀)を命令によって操作することを通してさまざまな概念を表現し視覚的に確認することができるソフトウェアであり、教育目的で広く普及した。同じくMITメディアラボでパパートの考えを発展させScratchを開発したミッチェル・レズニックは、最新の研究成果が盛り込まれ教育用のプログラミングソフトウェアStarLogoも開発しており、現在も大学教育などで利用され発展を続けている。http://education.mit.edu/portfolio_page/starlogo-tng/

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