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2020年プログラミング必修化!「作る」ことで分かるSTEM教育

第3回 足りないのは人と時間。世界を取り巻くSTEM教育の現状と課題

プログラミング教育だけでは足りない

長年STEM教育に携わり、この分野を研究者の立場から実践を通してみてきた野村先生は今回の小学校におけるプログラミング教育の必修化をどうみているのでしょうか? 聞いてみました。

——小学校におけるプログラミング教育の必修化について先生のお考えをお教えください。

野村:プログラミング教育だけではSTEM教育にはなりません。プログラミングから先の、いわば“コンピューターの外の世界”とのつながりを、ものづくりを通して知ることが重要です。ロジックとリアルは異なるので、そこを埋めていく体験を持たなければ、学問領域を横断する知識は身に付かないからです。

また、安易にプログラミング教育といいますが、それも違うのではないでしょうか。プログラミングはコーディングだけではありません。記述することに価値があるのではなく、そのアルゴリズムを考え、また作って実際に動くところに価値があります。そこに至るには発想やスキルが必要で、職人と同じ努力を要します。プログラマーに対する要請は産業界からは強いでしょうが、簡単になれるものではありません。子どものうちにプログラミングを教えれば、質の良いプログラマーがどんどん生まれるという考え方はあまりにも短絡的です。

答申(2)でも慎重に述べられていますが、これから導入されようとしているプログラミング教育は、すべての子どもたちが、21世紀型学力として持つべき問題解決力、論理的思考力やコミュニケーション力の基礎として、プログラミング的思考力、欧米では「コンピュテーショナルシンキング」(5)といわれている力を育むことを意図していて、実際に特定のプログラム言語でコーディングできることを目指しているわけではありません。新学習指導要領では、既存の教科の中で行われることを意図していて、特に算数や理科では具体的に例示されているところからも、STEM的な捉え方が重要であることが分かります。実際、算数数学とプログラミングとは条件を論理的、量的に扱うところなどで密接な関わりが出てきます。

コンピューターを使ったSTEM教育に関していうと、日本は欧米から10年は遅れているといわれますが、後進性ばかりが目立つかというとそうでもありません。海外のSTEM教育に関心のある教育関係者は日本の「総合的な学習の時間」に関心をもっています。日本では残念ながら、「総合的な学習の時間」の時数は減らされてきていますが、逆に最近、諸外国では、ナショナルカリキュラムの中にこのような時間を教科として盛り込もうという動きも見られます。国際会議の場などで海外の研究者に会ったとき、私は「日本ではSTEMという言葉こそまだはやっていないけれど、領域横断的な学習という意味で、日本には20年前から『総合的な学習の時間』と称するSTEM教育の時間がある」といっています。もっと積極的にアピールすべきです。

21世紀のリアル

——これからSTEM教育研究センターが目指す未来について教えてください。

野村:次の時代のリアルはIoTとそこから取得されるビッグデータ、そしてビッグデータを解析するAI技術にあると思っています。この先、実世界と情報空間の融合がより進む未来においては、物理的なものづくりだけでなく、それをより賢く動かすために、IoT機器を駆使してさまざまなデータを集め蓄積し、分析、活用することができるネットワークやコンピューターを組み合わせたものづくりが重要になってきます。

プログラミング教育においても、1台のコンピューターの中で完結するものではなく、異種なシステム同士がデータのやり取りによって総合的に動作する、大規模なコンピュータシステムを用いた問題解決を想定することが必要でしょう。そして、そこでは大量のデータを効率的、効果的に取り扱うことが中心となり、それらを数理的に処理する統計リテラシーなどがいっそう注目され、STEM的な視点がより大事になってくるでしょう。怖がらずにこれらの技術を一般常識として正しく知ることは未来へ欠かせない重要なリテラシーです。子どもたちにこれらの技術に触れさせるようなカリキュラムや教育方法を研究していきたいと思っています。ただ、そこでも大事なことは主体的に実際に手を使ってものを作り動かしてみるIoT体験、AI体験を持つこと。座学だけでは身につきません。

人工知能時代といわれ、インターネットからあらゆる情報が得られる21世紀中盤にかけての今後、社会的な格差を生む要因は3つあると思います。第一に従来からいわれている「ネットにつながる環境があるかないか」についてはどんどん解消されていくでしょう。しかし、そのネット上で提供される情報の多くが英語であることから現在深刻になってきているのが「英語が使えるかどうかにより、アクセスできる情報に差が生まれてきている」ことです。これが第二の要因です。そして、第三に、欲しい情報はなんでもインターネットで入手できるようになると、なにより問題意識を持ち主体的な学習者としてふるまえるかどうかが、子どもたちの学ぶ意欲の差となり、将来に大きな違いを産むようになってくるでしょう。子どもたちに学校での学びと社会の問題とを結びつけて意欲的に学べるようになってもらうためにも、今後、インテグレーションの考えを重視するSTEM教育の重要性は増していくと思います。

「IoTやAIなど、最先端の技術も子どもたちにふれさせてあげたい」と語る野村先生。 「IoTやAIなど、最先端の技術も子どもたちにふれさせてあげたい」と語る野村先生。

5 プログラミング的思考のこと。

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