ものづくりの人が知っておくべき権利
ものづくりの民主化と「ファブ社会」に向けた法教育やリテラシー
総務省は、デジタルファブリケーションの普及による新しいものづくりの動きが、社会にどのように影響を与えるかを考えるため、2014年1月から「『ファブ社会』の展望に関する検討会」を開催してきました。ファブ社会とは何なのか、その未来や、ものづくりの在り方の未来について、考えてみましょう。
「『ファブ社会』の展望に関する検討会」とは
総務省が主宰した「『ファブ社会』の展望に関する検討会」は、その会議の名前からくみ取れるように、未来志向で今後の社会の在り方を議論する場となりました。会議の構成メンバー も、デジタルファブリケーション、デザイン、素材、IT、建築、法律、教育など多種多様な分野の専門家でかつ30代から40代という、比較的若い人たちが参加していました。それぞれの会議の開催概要や議事録、発表資料などは検討会のWebサイトで公開されていますので、ぜひご覧ください。
総務省は、もともと通信やネットワークを司る組織。インターネットが普及し、IoT(Internet of Things)などの盛り上がりによってものづくりに注目が集まっているなか、物質との関係を情報通信技術の観点から考えなければいけない、というのが会議の趣旨でもあります。
デジタルファブリケーションが広まってきたことによって、3Dプリンタだけではなく3Dスキャンやレーザーカッターなどのさまざまな工作機械が安価でかつパーソナルなものとなり、それによって既存の製造業にも大きな変化をもたらし始めています。個人のものづくりやファッションやデザインなどのクリエイティブ産業の現状や可能性を俯瞰しつつ、ファブ社会がもたらす社会構造の変化にともなう法制度の見直しや教育のあり方などのさまざまな視点から議論がなされ、最終的には、ビジョンを作り法制度や社会への提言が盛り込まれました。
検討会報告書でも「デジタル技術と高いリテラシーを前提にしつつ、ものの世界にいかにして拡張して捉えるかという視点がこれから必要。情報と物質が交じり合う領域は人間が活動する新たな空間であることを認識し、独自用語として『フィジタル』と名づけた。この会議が今後の新たな情報社会の設計の最初の一歩となればと考えている」と、検討会座長の田中浩也氏(慶應義塾大学環境情報学部准教授)は述べています。
ものづくりの民主化時代に向けた、法教育やリテラシーが求められている
かつて自宅のテレビや冷蔵庫などを自分たちで修理するなど、プロでなくても誰もがなにかしらのものづくりに参加できる時代があったように、これまでの消費の時代からパーソナルファブリケーションによってものづくりの民主化を改めて引き起こしている時代に私たちはいます。こうした新しい未来の様子を描いた動画をFabLab Barcelonaが作成しています。
ものづくりに対する在り方が変化してきているなか、作り手の在り方も変化してきています。作品のクオリティだけでなく、いかにオープンデザインという考え方を盛り込んでいくかといった、ネットを通じた表現やものづくりの可能性もまだまだ開拓途中です。
こうした新しい時代の転換点にいるいまこそ、最低限の法律権利や契約の知識を持っておくことは重要です。誰かにおまかせではなく、自分自身がどうしたいのか,契約や権利に対して意識的になり、自ら選び取る姿勢が求められてきます。クリエイティブ・コモンズの記事でもご紹介したように、保護または放棄という0か100ではなく、権利を自分自身でカスタマイズしたり、デザインする時代なのです。
守るものではなく作っていくものという考えのもと、法律や権利をもっとクリエイティブに解釈し、法律家を使いこなすという発想も持つべきかもしれません。日本でも法律家が増えてきており、より近い存在として認識することが可能になるかもしれません。ものづくりと法律の関係を見直し、法教育や個人個人のリテラシーを高めていくことが求められているように思います。
【取材協力】シティライツ法律事務所 水野祐弁護士
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