ものづくりの人が知っておくべき権利
3Dプリントの活用で、変化の兆しを見せる法律のあり方
日本で個人のものづくりを加速させつつあるものの一つである3Dプリンタ。近年では、高品質な3Dプリンタの価格が下がり、個人がホビーに使うようなものから、精巧なプロダクトを作ることができるものまで多種多様な製品が利用できます。同時に、3Dプリンタをどのように活用するか、さまざまな議論が巻き起こっています。
3Dプリンタによる違法利用の可能性
3Dプリンタを始めとするデジタルファブリケーションは、新しいデザインや表現、ビジネスモデルなどさまざまな恩恵を私たちにもたらしてくれます。しかし、新しいツールの登場は、道具も使い方によって悪用することもでき、これまでになかった新たな法的課題を生んでいます。
例えば、3Dプリンタで製造された銃を所持していたとして、男性が銃刀法違反の疑いで逮捕され、懲役2年の実刑判決(現在、控訴中)を受けるなどのニュースが話題となりました。海外では、ペンシルベニア州フィラデルフィア市がアメリカで初めて3Dプリンタによる銃の製造を禁止する条例を施行しました。他にも、今後は精巧な貨幣や高価な製品をコピーし販売するような事例がでてくるかもしれません。
こうした動きを踏まえて、大日本印刷などではDRM(Digital Rights Management:デジタル著作権管理)技術を使い、銃などの製造や知財侵害となるデータのプリント出力を抑止する仕組みを開発しています。アメリカと同様に、日本でもこうしたデジタルファブリケーションによってもたらされている影響を技術的または法律的にどのような措置・対応を行うか、まさにいま議論の真っ最中のテーマなのです。
新しいツールの誕生は法律に変化を及ぼす
3Dデータ共有サイトや3Dプリンタのオンラインプリントサービス、プリントした作品を売買するマーケットプレイスなどを運営する企業も、銃などの危険物や知財侵害となる作品は、利用規約やガイドラインにおいて、審査の段階で禁止したり、排除する取り組みを行っています。もちろん、知財も個人利用では著作権侵害にはならず、個人の利用の範囲であれば自由に使うこともできます。しかし、それを販売しようとした場合や事業として使用するなど、第三者の知的財産権を侵害する場合には、侵害となり、場合によっては刑事罰が課されることもあります(銃などの禁制物に関しては個人利用目的でもNG)。
問題は、個人利用と商用利用をどこで判断するかというものですが、いまだ明確なものは決まっていません。今後、どのような法律やメーカーの自主規制、裁判などにおける判例が出るのかによって、これらの取り扱いも変わってくると考えられます。
また、3Dプリントや3Dスキャンが、創作的な表現といえるかどうかという議論も一部起きています。データのアップロードや立体化の過程になんらかの創作性があるのかどうか、というもので、著作権や意匠、特許などが複雑に関係してくる争点でもあります。もしかしたら、今後は「3Dプリント権」といったものがでてくるかもしれません。
新しいツールの誕生は、これまで規定していた法律に変化を及ぼします。法律を私たちがどのように捉え、どう考えものを作っていくか。作り手や企業など、さまざまな人たちによる対話と法リテラシーを持つことが求められているのです。
【取材協力】シティライツ法律事務所 水野祐弁護士
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