新しいものづくりがわかるメディア

RSS


特別寄稿:フロンティアメイカーアメリカファブ施設紀行

ラピッドプロトタイピングの可能性を信じ最後まで作り続けた1週間と、それからの話

ラピッドプロトタイピング

このアンプへの取り組みを通じて、ラピッドプロトタイピングの重要性に気づきました。

僕が今回意識したのは、“3日に1度は必ずプロトタイプを更新する事”です。また、プロトタイプを、(1)性能が悪くて、(2)見栄えが悪くても構わないから、(3)機能を果たして、(4)そう簡単には壊れないもの、と定義しました。そして実際、ほぼ2日に一度は何らかの製作物を作成し続けることができました。その試みの成果は大きく、いくつもの点で今回の取り組みを順調にしてくれました。特に大きな成果は、想像していたプロダクトが、実際に欲しいかどうか分かったという事です。これを一番自覚したのは、LEDイルミネーションを複合したアンプを作った時です。初めは、LEDの照明をたくさん取りつけるために、手で抱え込むような大きさで作りました。すると作り終わってから気づいたことが2つありました。

1つ目は、LEDイルミネーションとアンプを統合させてひとつのプロダクトにするのには価値があるという事です。プレゼンの段階ではまだアンプとLEDイルミネーションを統合したことはなく、正直不安がありました。というのは、LEDイルミネーションを横に置いてアンプで演奏すれば、それで十分じゃないかと思っていたからです。しかし実際に作り終わってスイッチを入れると、“この箱がギターアンプにもなるのか!”と、かなり感動的でした。この感情が、方向性が間違っていない事を示す大事なものとなりました。2つ目は、箱が大きすぎて、狙ったニーズに合っていないという事です。実際に動くものを作り終わってからのプロダクトの印象は、アイデア段階での想像より遥かに説得力があります。

こういった、実際に欲しいかどうかという、今回何よりも優先したかった事をいち早く知り、技術にこだわり始める前に軌道修正をするためのとても大事な情報をコンスタントに得ることができました。 

もう一つの思い

このフロンティアメイカーズに採択された時、テーマの遂行とは別に、必ず自分の中でかなえてやると思っていたのは、“きれいなもの、美しいものを見てきたい”ということです。ずっと憧れだったアメリカという地で、美しい景色、見たこともないような建物に囲まれながら、MITメディアラボやTechShop、FabLabなど、Makeの本場である地を訪れ、自分の理想とする考えを実際に行動に移して生きているすごい人に出会いたい。それが、自分の中での一番強い思いでした。実際、憧れの地での生活は夢のようであり、何度も想像力が広がる体験をしました。中でも、LabsAS220 Industryという夢のような空間が実在しているのを目にすることができた事、Autodeskのartists in residenceという事業で、住居と工場を与えられて、創作活動に取り組み続ける事で生きている人がいるという事実を知った事は僕の一生の宝物となりました。

今後の事

アメリカから帰った後は、ファブラボ大宰府で、作ることで貢献したいという思いを持って、サポートスタッフとして働きはじめました。アメリカで一通りの機材に触れ、メイカースペースを巡った経験で、少しアドバンテージはあるだろうと期待して始めたものの、ワークショップの準備や、あらゆる年代の方との対応など、スタッフとしてこなす仕事は経験したことのないものが大半で、毎日が新しいものとの出合いの日々です。また、機材の使用からメンテナンスまでこなし続けているおかげで、レーザーカッターや3Dプリンタについては知見がより深まったと思います。

ファブラボ大宰府のワークショップにて。 ファブラボ大宰府のワークショップにて。

また、必要なものを自分で作るきっかけになりうるような感情に日頃から気を配るようになり、新しいものを創りだすきっかけを探し続けています。春のアメリカで、方向性が決まったギターアンプに関しては、3Dプリンタでケースを作り直した上、タッチスイッチを設けるなどして、より人の感覚に合ったものを追求しています。今ではプロダクトというより、メディアアートの作品のような感覚でこのテーマを続けています。

派遣後取り組み続けているギターアアンプ。 派遣後取り組み続けているギターアアンプ。

これからは、こうして作った自分の作品をコンペに応募し続ける一方で、作ることを期待される存在としてふさわしい場所を探し続けます。今の僕の夢は、工業デザイナーになることです。それも工業デザイナーでありながら、ミュージシャンのような表現者として生きたいのです。自分個人を必要としてくれている人と自分自身のために曲を書き続け、日本を回って歌を届けにいく、そんなartisticな生き方への強烈な憧れが今でもあります。僕も工業デザイナーとして、さまざまな地を訪れながら、自分個人を必要としてくれる人と自分自身のために創作をし続けて生きる。そんな風になりたいと思っています。そんな夢を叶えるためにも、近い将来には、Pier9のartists in residenceに、artistとして活動することを夢見て頑張ろうと思います。

おすすめ記事

 

コメント

ニュース

編集部のおすすめ

連載・シリーズ

注目のキーワード

もっと見る