特別寄稿:フロンティアメイカーアメリカファブ施設紀行
ラピッドプロトタイピングの可能性を信じ最後まで作り続けた1週間と、それからの話
経済産業省が2014年に実施した「フロンティアメイカーズ育成事業」は、世界のニッチ市場で勝負するものづくりベンチャー志望者を海外に派遣し、現地でものづくりを行うプロジェクトです。この事業に採択され、アメリカで自作ギターアンプの試作開発をした九州大学の飯島祥さんに、現地での記録を全3回にわたって寄稿していただきました。
最終回となる第3回ではアメリカでの滞在記録の後半と帰国後について掲載します(編集部)。
第1回の記事 第2回の記事
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- ボストンへ移動、無事到着
- Arduinoの勉強(ShiftRegister, shiftOutについて)
このプロジェクトを通して感じた事は、“やっぱり紙コップには愛着が湧く”ということです。いままで遊びでいろんな容器に詰め込んできましたが、カバンに入れたくなるかわいらしさがこの容器にはあります。ボストンでは非常に多くの人がコーヒーカップを持って歩きます。オシャレで片付けられる事かもしれませんが、やはりこの紙コップという形には、人に愛される理由があるように思えてなりません。
一方でアンプは、プロダクトとしては最悪です。重いし、ぶつけるとすぐ壊れるし、でかくて持ち歩きにくいし、高価です。それは“いい音を出すため”には欠かせないというのはよく分かります。けれど、もっと愛され親しまれるようなアンプがあってもいいように思えます。そういった理由から、LED×アンププロジェクトに関しては、紙コップの形状を最終ゴールに据えたいと思うようになりました。
またそれに関連して、ここへ来てから見たいろいろな景色を思い出しました。ボストンの澄み渡った景色、サンノゼのずっと奥まで広がる山、TechShop近くにあったBlue Bottle Coffee、どれもその美しさは、“静かさ”から来ているように思いました。その感情を今回は大事にすることも含め、(1)なるべく人の動きに追従させる、(2)デザインをうるさくしない、を遵守することにしました。
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- LabsAS220 Industryの訪問
- LEDイルミネーションの続き
- 異時点滅回路を用いたLED照明
ロードアイランド州にあるファブラボ「LabsAS220 Industry」 を訪問してから、協調の精神について考えるようになりました。そして複数のメイカースペースを巡ったことで、FabLabが、“個人の良心”があってこそ成り立つ、唯一無二のコワーキングスペースであることも分かりました。
サンフランシスコではTechShopとNoisebridgeを訪れました。TechShopは清潔な環境が保たれているのに対して、Noisebridgeはキッチンに汚れた食器が放置してあり、トイレも臭く、全体的にほこりっぽい感じで、いかにもギークの溜まり場という印象を受けました。僕は、これは施設に入ってくるお金の違いだと思いました。TechShopでは、月額で利用料が必要です。一方、Noisebridgeは、電子工作に興味のある人が集まるだけで、利用料は請求されません。だから、Techshopは雇われのスタッフが掃除をし、Noisebridgeでは衛生面までに手が行き届かないのだと思いました。
ところが、ボストンで利用したAS220(FabLab)は、大型機械の利用を除けば利用料を払わなくてよいのにも関わらず、施設内がとても清潔に、それも美しく管理されていました。商用スペースのTechShopよりもおそらく収益は少ないであろうFabLabが、このような空間を維持できる理由を2つ思いつきました。ひとつは、空間の清潔さ、快適さの重要性を強く認識したスタッフが、自発的に掃除を行っていたこと、もうひとつは、利用者が無意識に、清潔さを保って後を去ることを心がけていたからです。TechShopで作業していた時は、利用料金を払っていたため、“自分は客だ”という意識が強く、使えるものは使い倒そうという気持ちでいました。
一方AS220では、“この集団の一員だ”という気持ちに変わりました。なぜなら大型機械を使用する時以外は、お金を払うことなく作業に取り組めたからです。また、Noisebridgeの光景を既に目にしていたからこそ、AS220の環境は自分の心がけで大きく左右するという自覚がありました。そのため、次の人が3Dプリンタを使いやすくなるようにテープを貼り替えたり、作業した机周りを片付けてから去ったりする協調の精神が身に付きました。
西海岸でのTechShopとNoiseBridgeとの比較で、ギークの溜まり場から市民権を得たスペースへと変わるためには掃除が不可欠だと実感しましたが、AS220を訪れたことで、それはお金だけではなく、スタッフとメンバーの意識によって保つことが可能であると分かりました。FabLab憲章の中に、What are responsibility?(利用者はどんな義務を負うか?)の答えとして、operations: assisting with cleaning, maintaining, and improving the lab(作業:掃除やメンテナンス、ラボの改善など、運営に協力すること)とありますが、これが本当に実現されていることを目にすることができたと思っています。
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- MITの訪問
“知識は想像力を広げるための道具、手段でしかない”というメッセージを自分なりにビシビシ感じました。MITメディア・ラボ教授である石井裕先生の“ミュージックボトル”という作品に以前からほれ込んでいましたが、基本の仕組みがコイルとRFIDである事を知り拍子抜けしました。大好きなバンドの曲をコピーしようとしたら、コードが4つしかなかった時の感覚に似ています。けれどここで働く人は、作る作品の1つ1つに、従来と違った意味付けをし、願いを込めます。というか、構想を練る際、“人間が使う”というfactorに重きを置いています。問題を解決するものづくりというのは、こういう事なのだと思いました。自分らが抱える問題を、“もの”で解決しようとしているのがよく伝わりました。
3/9
- LED×アンプversion 3の完成
この日、自分が目指したいものづくりについて、“人に貢献するプロダクト”じゃなくて、“人を感動させるプロダクト”を作り続けたいと思いました。技術は後からついてくるものと捉えたい。感動させるために必要な力って何でしょうか、それはプロトタイピング力、ものを作る手法の数々、それと、みんなが抱く共通の思いを、もので表現する能力だと僕は思います。だから、幅広い表現技法を知るとともに、よく考えて作らないといけない。よく考えるためには、とりあえず作らないといけない。そのためにはプロトタイピングが必要。そう思いました。
3/10
- ここ最近のリバウンドですごくよく寝た、午後4時起床
- 最後のプロジェクトに向けた計画立案、買い物
3/11
- LED×アンプversion 4の取りかかり、概形の決定
3/12
- LED×アンプversion 4の仕上げ(ほぼおしまい、日本で足りないパーツを追加)
3/13
- 帰国
最終版の概要を、以下に示します。
機能:紙コップをかたどった、イルミネーションとしても機能するアンプである。スイッチを入れると、ギターアンプとして機能する一方、中に入っているマルチカラーLEDアンプが点灯する。中にICが組み込まれたLEDを用いているため、自動で色が変化する。
特徴:乾電池で動くため、持ち歩きが容易。また、誰もが馴染みのある紙コップの形にすることで、思わず手に取りたくなるような愛らしさを含ませた。その一方で材料はPPT(ポリプロピレンフタレート)とアクリル板であるため、プロダクトとしての頑丈さも併せ持つ。容器はアクリル板で出来ており曇りガラススプレーを施して、イルミネーションが最大限に映える。蓋は3Dプリンタで出力した。ひずみの程度をfixする代わり、ツマミを取払い、極力簡易な外見にした。