2020年プログラミング必修化!「作る」ことで分かるSTEM教育
第1回 STEM教育とは何か?~それはコンピュータの歴史と共に始まった~
Scratch普及の第一人者、青山学院大学客員教授・阿部和広先生に聞く
プログラミング教育、STEM教育について造詣が深く、自らも初心者向けプログラミング言語「Scratch」の普及を推進する阿部和広先生に、今回の必修化について聞きました。
プログラミング教育必修化がもたらすもの
——2020年実施予定の小中学校の学習指導要領改訂において、プログラミング教育が必修化されたことに対してどんな感想をお持ちでしょうか?
阿部:私がプログラミング教育に関わるようになったのは2001年からなので16年ぐらい前。一昨年には、文科省の「プログラミング教育に関する調査研究会」の委員を拝命し、総務省の「プログラミング人材育成の在り方に関する調査研究」のお手伝いもさせていただきました。なかなか感慨深いものがあります。ただ、「第4次産業革命の人材を育成したい」という政府の思惑と、私がずっとやってきたプログラミング教育とは若干ズレがあります。
——どんな点でズレを感じますか?
阿部:私がやってきたプログラミング教育のベースになっているのは数学者で発達心理学者のシーモア・パパート氏が提唱した「構築主義」です。子どもは、学ぶときに自分で「もの」を作りながら、その過程を通して学ぶ。まさに知的な枠組みを構築していくわけです。そこでは子どもは主体的な学習者なんですね。
小学校学習指導要領案では、その総則で、プログラミング教育を「児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動」としています。これはこれでいいと思います。しかし、プログラミングは、いきなり答えが出るというものではなくて、子どもたちが主体的な学習者として試行錯誤するなかで、だんだん答えに近づく過程で、自ら学ぶ意味を発見するものです。残念ながら、中教審答申にあった試行錯誤の要素が、この総則では弱くなっています。
また、論理的な思考力を養うことは非常に大切ですが、それはこのような活動を行った結果としてもたらされるものです。さらには、同じく中教審答申にあったプログラミング的思考、つまり、プログラムそれ自体ではなく、それを行うための能力を培うことも、ここからは読み取れません。
——プログラミング教育から、試行錯誤が抜け落ちた理由はなんでしょうか?
阿部:今までになかった、答えがない答えを見つけるような授業の進め方に対し、学校現場で柔軟に対応するのが難しいからだと思います。そのために、解釈の幅を狭めて実施しやすくしたということです。確かにプログラミングは必修化されることになりますが、単独の教科になったわけではありません。したがって算数や理科など各教科の中でやるか、あるいは「総合的な学習の時間」を使ってやるか、です。実際にどの学年のどの教科、どの単元で行うかのカリキュラムマネジメントは学校の責任でやりなさいという話になっています。限られた時間、人的な制約もあり、学校側には困惑があります。やるべきことを増やすのであれば、本来、校務合理化とセットで導入しなければならないはずですが。もちろん、これはプログラミング教育だけの話ではありません。